2012/02/24

未来の想像力を創造する

会期も残り少なくなってきたので、今参加している展示について、少し書いておくことにする。


「100年あとの世田谷」というタイトルの通り、100年後の世田谷がテーマなわけだが、
僕はそのテーマに対して、「人はどうすれば『新しいリアリティ』を獲得できるのか」という観点で試行錯誤していた。

人は、様々な感覚器を通じてリアリティを獲得する。現実には存在し得ないような現象でさえも、感覚器に与える情報によってはさも現実に存在しているかのような表象を得ることができる。AR(Augumented Reallity)やVR(Virtual Reallity)はまさにそういった「新しいリアリティ」を獲得させるための技術として研究・進化してきた背景がある。

しかし、今回はそのような技術は利用しなかった。高度な技術では無く、できるだけシンプルな形で「新しいリアリティ」を獲得させるための方法を模索した。

「100年後という膨大な時間を、どうすればリアリティを持って、具体的にイメージできるか」という思考は、「100年後がどうなっているかというより、どうすれば100年という時間を体感できるか。」という徐々に具体的な形へと深化していった。

つまり、「人間の想像力」を発現させる、呼び起こさせる、創造させる装置をつくろうと思ったのだ。このような思考・試行の結果たどり着いたのが、今回の展示である。

2月26日まで、三軒茶屋の生活工房ギャラリーで展示されているので、機会があれば是非、ご覧ください。会場にある解説パネル用に書いた文章を、以下に再録しておきます。

「圧縮された100年」
Parametric Speaker, Digital Audio Player, 2012.

ここから聴こえてくるのは,世田谷の街の環境音をはじめとした様々な音声に対して,元の速度からだんだんと早送り(時間の圧縮)をし,最終的に約1521倍速にまで到達させた音声です.この約1521倍速という数字は,100年という膨大な時間を本展示の会期(24日間)の時間に圧縮するという設定で算出しています.

私たちのほとんどは,100年という時間を実際に体感したことはありません.おそらく(革新的な医学や生命科学の進歩が無い限り)今から100年後の音を聴くことができる人もいないでしょう.この膨大な100年という時間を経過した世田谷を想像する手がかりにするため,音という媒体を用いて時間の圧縮実験を行いました.

お聴きの通り,圧縮された音からは,元々の環境音に入っていた話し声や車の音などといった「個性」は全て剥ぎ取られ,ただのノイズとなってしまっています.
にもかかわらず圧縮された結果が無音では無いのは,私たち自身を含めたこの世界が,生きて活動していることで,常に何らかの音を発していたからです.

100年という時間は,私たちのパーソナルな行為を全て剥ぎ取ってしまうほど膨大です.しかしその上で私たちが100年後に遺せるものには,一体何があるのでしょうか.