ここ最近はいくつかの商品の準備が進んでおり、取扱説明書の校正~入稿作業に忙殺されていた。
校正作業の一つに「読み合わせ」というものがある。
二人一組で、出力紙を見る側と原稿を音読する側に分かれて、言葉に間違いが無いかチェックする作業だ。
この時、いつも奇妙だなと思う現象が起こる。原稿が間違っている比率より遥かに多く、「読み間違い」が起こるのだ。
この「読み間違い」は知識が無くて漢字が読めないとかそういうものでは無い。
例えば、「道路では遊ばないように注意してください」という文章が「道路では遊ばせないようご注意ください」みたいに全く異なる文章に変形してしまう場合がある。
なぜこのようなことが起こるのだろうか。
似たような事例として、「書字スリップ」という現象がある。(画像)
ここでは「既に習得した」動き(例えば自転車に乗るとか箸と使うとか)を、練習し始めの頃のように一々考えて身体を動かさずに済むよう、ショートカットの役割をしてくれている。
「書字スリップ」とはそこがバグを起こした状態のことだ。
例えば、ものすごいスピードで、ひらがなの「お」という文字を書き続けていると、「お」を書いたつもりなのに時たま「あ」と書いてしまうことがある。ショートカットを高速で何度も呼び出している間に、うっかり(身体の動かし方的に)近いショートカットを間違えて呼び出してしまう現象だ。
前述の「読み間違い」も、これに似たようなことが起こっているのかもしれないが、よくよく考えてみると、ちょっと違う。
文章を声に出して読むとはどういうことか。おおまかな流れとしては、
目から「視覚情報」として文字が入る→これは「文字」だと解釈する→声に出すために、声帯と口の筋肉を操作する→発話
という感じだろうか。
これだけでもさっきのショートカットと比べて、相当複雑な流れだ。文章はその都度違うので、ショートカットなんて作れないだろう。
だから、おそらくこの複雑な経路で情報を受渡している間に「読み間違い」のようなバグが生まれてくるんだろうと思われる。
思い返すと、小学校の国語の時間で行われていた「音読」は、この情報の受け渡しに馴れるためのトレーニングだったのかもしれない。
早く、正確に情報を入力してアウトプットする能力。実は誤解やミスを防ぐためには、とても大切な能力だ。
どういう目的でカリキュラムに「音読」が入っていたのかは知らないが、知らず知らずのうちに、そういった能力が育まれていたとしたら、学校の授業も馬鹿にできない。