2011/08/20

視覚的緊張感

演劇などのイベントを鑑賞すると、座席に多くのチラシの束が置いてある。
いつも開演前に一通り眺めて、「行ってみたい」と思うイベントと「デザイン的に取っておきたい」と思うチラシだけ持って帰るようにしている。
数多くのチラシを眺めていると、読みにくいものと読みやすいものにハッキリ分かれる。
これはデザインの「美しさ」とは全く関係ない。ただ、読みにくいものにはハッキリとした特徴がある。


突然だが、簡単な実験をしてみようと思う。
二つの図版を用意した(添付の画像参照)。
まずAの画像、「S」から「G」まで眼でたどっていってもらいたい。
できたら、次にBの画像でも同じように「S」から「G」まで眼でたどって欲しい。



さて、何が起こっただろうか。Aの方が「たどりにくい」と思ったのではないだろうか。
目でたどる際に、道の太さによってたどりやすさが明らかに違う。
道が細ければ細いほど、たどるには視線を一点に集中する必要があるため、ストレスを感じてしまう。

このような状態のことを僕は「視覚的緊張感」と名付けている。

前述のチラシの中でも、読みにくいと感じたものは共通して、このAをたどった時と同じような「視覚的緊張感」を感じていた。
「読めないのではなく、読むことはできるが辛い」というこのような状態は、読むという行為自体に意識が集中してしまうため、読んだ内容自体は頭に残らない。つまり、情報の伝達・コミュニケーションが成立しないということになる。

受け手は「美しい・カッコイイ」チラシなんて必要としていない。お目当ての演劇が始まるちょっとした待ち時間に、「おもしろそうだな、今度これ行ってみようかな」と思えるだけの内容と公演情報(日程・チケット取得方法)をサクッと得たいだけなのだ。

「視覚的緊張感」はグラフィックデザインの現場だけでなく、コミュニケーションに関するあらゆる場面で発生する。
「自分の意図を伝えて理解してもらう」というコミュニケーションの原理原則を忘れないために、以前ノートに描いたこの図を、たまに見て振り返るようにしている。